珍しく自己主張が弱そうなアソシエイト君のお話 -Cell and Driving-
朝、会議に向かっていた。9時に出発するはずが、アソシエイトの準備が終わっていないらしく、結局、出たのは9時30分。こりゃ日本だったらボスが起こるだろうなー、と思いきや、そこまで焦っている感じはしない、いいのかな(・・)さらに、目的地は距離的には遠くないものの、やっぱりやっぱり渋滞に巻き込まれた。
「あーあ、困ったなー。」
と頼りなさそうなアソシエイト君はあまり困っていなさそうな顔で運転を続ける。
ちなみに、この車、ホンダだけど、めちゃくちゃぼろくて、冷房はないのはもちろんシートもほこりだらけだったりして、なかなかサバイバルな感じ。「Sorry, this is the only car that I could afford...」とか謝らなくてもいいのにー、と思う、ちょっと頼りなさげな雰囲気で言っていた。なんか、ナイジェリア人は比較的、自己主張が強い人が多いと感じていたので、彼みたいなタイプは珍しいなー、そして、このサバイバルなナイジェリアで、しかも弁護士として生きていくのに、本当に向いているのかな、なんて思わせてしまう彼。
なんか給料もとっても安いみたいで、例えば、時給800円のコンビニで1日8時間、週5日働くと3週間ほどで稼げるお金ほどしか月給としてもらっていないらしい、それって少なくないか、、、、だって、事務所のチャージはパートナーが1時間5万円強、若手が1時間2-3万円強だから、すっごくすっごくボスが儲けていることになる。いやー、それだったら、俺はここで働かないかも、なんて思ってしまうけれど、他のところより給料は良かったりするみたい。だけど、例えば、外資系の企業で普通に働いたりインハウスカウンセルになった方がずっと儲かるみたい。だけど、あまりそういったことを積極的にやりそうな感じではないのだ。
さて、そんな彼は渋滞に巻き込まれ、ボスからは「渋滞に巻き込まれたのか!?早く来い!」と携帯電話で怒られていたらしい。話して1分もしない間に、目の前の警察官が車の行く手を阻んだ。
アソシエイト君は警官と議論している。携帯電話をしながら運転するのは違法らしい、そこまでは分かるんだけど、だから、車を道路わきに止めろ、と言っている。
そうしているうちに、もう一人の警官が来た。悲しいかな、冷房がない彼の車は窓が空いていたんだけど、その警官は窓から手を突っ込んで鍵を開けて、僕が座っていた助手席の後ろに座りこんでしまった。そして、車を道路沿いに止めようと叫んでいる(・・)
しかたなく、アソシエイト君が道路わきに止めると、その方向じゃだめだ、道路の進路方向に向かって止まっているじゃないか、そうじゃなくて、道路と直角になるように、あの空いたスペースに止めなさい、と方向まで指示。まあ、確かに、こういう方向で止めた方が逃げられにくいんだけどね。
アソシエイト君は車を降りて、外で何やら警官と議論をしている。といっても、「重要なクライアントとの会議の途中だから、3000Nira(20ドルくらい)で勘弁してよ。」と頼りなさげに議論をしているようだ。警官は「Put out your money!!I will take you to the office」としきりに言っていた。
そうこうしているうちに、もう一人の警官が空いている運転席に乗り込んできた。
警官は僕に向かってこう話しかける。
「Ok, you know this」(携帯電話を僕に見せた)
「You are not supposed to drive a car like this」 (携帯電話をしながら運転をするふり)
「You should drive like this」(両手をハンドルにかけて運転をする真似)
「Why you did not say anything? You should have told him that he should not have driven like that」(俺を指しながら)
「Do you have any money?」
あまり英語がわからず、要領を得ないふりをして、とりあえず、「No, no money」と言いながら、アソシエイト君を指して、「He is taking care of anything」とあえてつたない英語で言ってみた。交渉に時間がかかると思ったのか、それとも、彼にたかった方が早いと思ったのか、警官は運転席を降りて、アソシエイト君の方に向かっていった。おお、すまない、だけど、よろしく頼む、、、、と言う感じ。
頼りなさそうに議論している彼は、5分くらいして、車の方に戻ってきて、「悪いけど、お金持ってない?」と言ってきた。仕方ないので、彼に財布を見せると、彼は5000Nira(3500円くらい)を取りだして、警官に差し出した。
警官は最初は「Put out your money.」と言っていたけれど、アソシエイト君が頼りなさそうに何度も差し出しているのを見て、これ以上たかれないと思ったのか、「しぶしぶ」受け取って、「今度から注意するに。You can go.」と言って、道路に送り返した。その際は別の警官がこっちに向かってきていたんだけれど、彼らが来る前に早く行け、という感じで送りだした。彼らが来ていたら、賄賂の分け前が減るかもしれないし、そもそも贈収賄は違法だからね。
アソシエイト君は「あーあ、、、」と絶望的な表情で、がっかりしていた。そりゃそうだろー、彼の月給からすると、5000Niraはかなり高いのだ。
僕にも謝っていて、貸した5000Niraもミーティングが終わった後、すぐに帰してくれて、「Sorry for your bad experience」と言って、ランチまでおごってくれた。ああ、そんなにしてくれなくてもいいのに、と思いつつ、払うと言っても聞いてくれませんでした。いやー、自分が詰問されないで警官の賄賂要求の顛末を見れたのはかなりのエンターテイメントだったので、それなりに興味深かったし、僕がいなければもうちょっと賄賂の要求額も低いことを考えると、ちょっと悪いかな―、と思ったけれど。ちなみに、アソシエイト君が車の外で警官と話していたとき、僕が日本人であることを伝えたら、日本円での賄賂の支払いを要求されたみたいです。持ってきてないって(・・)
ランチは、すっごく地元のローカルレストランで、白いご飯に肉と魚の佃煮みたいなものが小さく一切れずつ乗っていた、素朴なレシピだけど、なかなか美味しかった。おなかいっぱいな水曜日の午後。